著作隣接権について

■著作隣接権とは?
  •  著作物を創作した人には自動的に著作権や著作者人格権が発生します。
     たとえばシンガー・ソングライターが自分で作詞・作曲をすれば詞や楽曲の著作者となり、さまざまな著作権と著作者人格権を得ることになります。

     一方、他人が作詞作曲した音楽を歌うだけの歌手はもちろん著作者ではありませんし、著作権・著作者人格権もありません。歌手は新たな著作物を創作しているわけではないからです。
     しかし、どのような声でどのような歌い方をするかによって、同じ楽曲でもその表現はずいぶんと変わりますので、歌唱にも著作物に準ずる創作性はあると考えられます。

     そこで、著作権法では、歌手による歌唱は著作権ではなく「著作隣接権」で保護しているのです。
     この場合、歌手は著作権法上「実演家」として「著作隣接権者」になります。実演家以外には、「レコード製作者(一般的にはレコード会社)」、「放送事業者(テレビ局)」、「有線放送事業者」が著作隣接権者になります。

     下記のように、著作隣接権は著作権に比べると認められている権利の種類が少なく、比較的狭い権利といえます。
     しかし、著作隣接権は実演家が「実演」をしさえすれば著作権とは別個独立に発生し、たとえば、音楽CDを製作して販売しようとする場合には、楽曲の作詞家・作曲家だけでなく、著作隣接権者である歌手やレコード製作者の許可が必要となるのです。

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■実演家(アーティスト・タレントなど)の著作隣接権
  •  アーティストやタレントの方々は著作隣接権者のうち「実演家」にあたります。歌手だけでなく、演奏家、指揮者、俳優、ダンサー、声優などが実演家です。

     著作権法上、実演とは「著作物を演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、その他の方法で演ずること」とされており、また、演じる対象が著作物でなくても、演じる行為が芸能的な性質を持つ場合には実演家として保護されます。

     ですから、サーカスやマジックを演ずる行為も実演に当たりますし、アナウンサーや司会者なども、その語りに創作性が認められれば(つまり「話芸」の域にあれば)、実演家といえるでしょう。
     こうした実演家の有する著作隣接権の内容とその例外は次の通りです。


@録音権・録画権
  •  実演を録音・録画する権利、そして録音物・録画物の複製(コピー)を許諾する権利です。
     たとえば歌手の歌、ダンサーのダンス、俳優の演技、声優のセリフを録音・録画するには許諾が必要です。
     ただし、俳優については、自分の実演を映画のために録音・録画することを許諾すると、その映画の複製については録音権・録画権を主張できなくなります(これを「ワン・チャンス主義」といいます)。
     ただし、映画からサントラ盤レコードを作成する場合などの録音には許諾する権利があります。
     一方、たとえば実演家がテレビ局に実演の放送を許諾した場合、テレビ局は放送のための収録はもちろんできますが、実演家の許諾なしにそれをDVDの販売などの他の目的に利用することはできません。


A放送権・有線放送権
  •  実演家は、実演を放送(または有線放送)することを許諾する権利を持っています。
     ただし、これにも例外があり、放送用の実演を有線放送したり、実演家がいったん許諾した録音・録画物を放送(有線放送)する場合、また同じ放送事業者が再放送する場合は、改めて実演家の許諾を得る必要はありません。
     しかし、これらの場合、放送事業者などは実演家に相当額の報酬を支払わなければなりません。
     このことは実演家の方々も意外にご存じないようです。


B送信可能化権
  •  送信可能化とは、一般にインターネットのホームページにデータをアップロードすることをいいます。実演家はそれを許諾する権利を有しているのです。
     ただし、これにも例外があり、実演家がいったん実演の録画を許諾したら、それを送信可能化するのに改めて許諾は必要ないことになっています。
     ですから、実演家がイベントでの演技のDVD収録にいったん同意したら、それがインターネットで配信されても権利の主張はできないことになります。


C二次使用料を受ける権利
  •  実演家は、商業用レコード(CDやテープなど)への実演の録音を許諾したあと、それがさらに放送や有線放送に使用された場合(二次的使用)、放送事業者などから使用料をもらう権利を有しています。
     ただし、この使用料は実演家本人が請求することはできず、所属する実演家団体、たとえば社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)が徴収し、そこから配分を受けることになります。


D譲渡権
  •  実演家は、実演の録音物・録画物を譲渡して公衆に提供する権利を持っています。ただし、録画についていったん同意した場合は、それが譲渡されても譲渡権を主張することはできません。
     たとえば、録画予定の舞台への出演にいったん同意したら、その舞台を収録したDVDやビデオの販売をコントロールすることはできません。(ただし、同意の際の契約で、DVDなどの販売についての使用料を交渉することはできるでしょう。)


E貸与権
  •  自分の実演が録音された商業用レコード(CD・テープなど)について、最初にレコードが販売された日から1年間はレンタルについて許諾する権利です。 ですから、実演家の同意がない限り、発売日から1年間は、そのレCDはレンタル店に置かれないのが原則です。(ただ、実際には、日本の大手レコード会社は、シングルなら発売と同時に、アルバムでも発売から3週間後にはレンタル店に置くことを認めているのが実情です。)
     また、1年が経過した後は、レンタルOKとなりますが、実演家はレンタル事業者から報酬を受ける権利があります。
     この報酬も二次使用料と同様に、芸団協などを通じて徴収・分配されることになります。


F人格権(氏名表示権・同一性保持権)
  •  氏名表示権により、実演が録画・録音されたDVD・CDのジャケットや歌詞カードに、実演家の名前をどのように表示するかについて、実演家の同意を得る必要があります。
     ただし、バックコーラスだった場合など、通常は個人の名前を載せないのが普通の場合(「公正な慣行に反しないと認められる場合」といいます)は名前を省略されることもあります。
     また、実演家の同一性保持権については、著作者人格権ほど強い主張はできないと考えられています。(著作者人格権の同一性保持権は「意に反する改変を受けない権利」ですが、実演家の同一性保持権は「名誉又は声望を買いする改変を受けない権利」とされているからです。)