知的財産のトラブル!

 クリエイターやデザイン事務所、中小企業などが、出くわすことの多い知的財産トラブルの事例です。(それぞれの事例をクリックすると下の説明にジャンプします。)

クリエイター・デザイン事務所・制作会社などの場合

  @納入した自分の作品が、約束していた以外の用途に使用された!
  A提出スケッチがボツにされたのに、いつのまにか似たデザインを使用された!
  B発注者が「代金を支払ったのだから、著作権はこちらのもの」と主張してきた!
  C社員デザイナーの作品の著作権は社員のもの?それとも事務所のもの?
  D仲間と共同で作品を創ったが、メンバーがケンカ別れしてしまった!
  E発注者から受け取った素材に著作権侵害があり、制作がストップさせられた!

販売・サービス業、メーカーなどの場合

  @ネットショップに掲載した商品写真や説明文を他人が無断で使っている!
  A開発した商品がヒットしたら、他社にデザインやネーミングをマネされた!
  B他社製品のデザインの一部を参考にした商品を販売したら警告された!
  C特許権を取った製品を製造販売したら、他人から意匠権侵害で訴えられた!
  D長年製造や販売をしてきた商品なのに、突然侵害で訴えられた!
  Eライセンス契約をした特許権者などが倒産し、一方的に契約を解除された!



クリエイター・デザイン事務所、制作会社などの場合

  • @納入した自分の作品が、約束していた以外の用途に使用された!

     個人のクリエイターがよく直面するトラブルです。パンフレット用という約束でイラストを制作して納品したのに、いつの間にかホームページにも使われた・・
    「話が違う!それならもっと製作費をもらえたのに!」と言いたくなります。
     これはクライアントが、貴方が許諾した著作権の範囲を無断で超えて使用しているケースで、立派な著作権侵害です。あらかじめ契約書で使用許諾の範囲を確認しておけば防げたトラブルです。
     弱い立場の貴方が「契約書」を言い出すのはなかなか難しいのは確かですが、たとえば慈善の策として、注文請書や納品書の但書に使用目的・範囲を明記し、その貴方用控えにクライアントの担当者のサインをもらっておくなど、ちょっとした工夫でクライアントに著作権を意識させたり、万一訴訟になった場合の証拠とするといった方法はあるのです。
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    A提出スケッチがボツにされたのに、いつのまにか似たデザインを使用された!

     これもよくあるケース。クリエイターに提案だけさせてワザとボツにし、しばらく経ってから、それを少し変えたデザインで製品化して知らん顔、なんてセコい会社が今でもあるようです。
     たとえラフスケッチでも貴方の作品は立派に著作権が発生しているのですから、誰も貴方に無断でマネをしたり、いじって使うことは許されません。ただ、貴方も無防備で提出したままだと、こういうトラブルにも巻き込まれ易くなります。
     こうしたトラブルも、作品にきちんと著作権表示をしておいたり、作品提出と同時に簡単な契約書(「覚書」程度のもの)を交わしたりしておくことで防げるのです。
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    B発注者が「代金を支払ったのだから、著作権はこちらのもの」と主張してきた!

     貴方が作品の制作を請け負い、発注者に納品して代金を受け取れば「納品物」の「所有権」は発注者のものです。民法上の売買契約ではそうなります。
     でも、著作権譲渡契約が交わされていない限り、納品物の著作権は発注者にはありません。だから、きちんとした発注者なら「本著作物に関する全ての著作権(著作権法第27条、同第28条に定める権利を含む)を譲渡する。」との文言のある契約書を作り、貴方にハンコを押させているはずです。
     さらに契約書をよく読むと、「甲(貴方)は乙(発注者)並びに乙より正当に権利を取得した第三者に対し、著作者人格権を行使しない。」という文言もあるはずです。著作権を譲渡しても、貴方には最後まで著作者人格権が残るからです。
     逆に言えば、こうした権利処理がされていない限り、貴方は代金を受け取っても、当然著作者であり、依然として著作権者なのです。
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    C社員デザイナーの作品の著作権は社員のもの?それとも事務所のもの?

     青色発光ダイオードの特許権を巡る裁判で「職務発明」が脚光を浴びたのをご存じの方も多いでしょうが、意匠権や著作権にも「職務創作」の制度があります。
     事務所や会社などの法人が、法律的に社員が創作した作品の「著作者」となるためには、次の5つの条件が必要です。すなわち作品が・・・
     @法人の発意に基づき A法人の業務に従事する者によって B法人の従業者者の職務上作成されて、C法人の著作名義の下に公表するものであって Dそして、法人内部の契約・勤務規則等に、別段の定めがないこと。
     固い表現ですが、これら5つの条件が揃わない限り、著作者は創作した社員であり、原則的に著作権も社員のものですから、雇い主だからといって勝手に使うことはできません。
     でも、デザイン事務所や中小企業の場合、社員との雇用契約の中で特に社員が仕事の上で創作したデザインや作品についての知的財産権について取り決めている例はまだまだ少なく、社員側が泣き寝入りすることになったり、逆に辞めた社員から著作権を主張されたり、といったトラブルが起こりがちです。
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    D仲間と共同で作品を創ったが、メンバーがケンカ別れしてしまった!

     もしこの作品が「共同著作物」に当たる場合、全員の合意がなければ発表したりビジネスで使ったりすることはできず、トラブルに発展するおそれがあります。
     共同著作物とは、複数の者が共同で創作し、かつ各人の貢献部分を分離して別々に利用できないものをいいます。(単にみんなの作品を集めて一つにまとめただけで、バラでも利用できる場合は「集合著作物」といいます。)
     共同創作する場合も、制作にかかる前に権利に関して契約を交わし、著作権や著作者人格権の行使について代表者を定めたりしておけば良いのですが、法律知識なしに制作に着手する場合がほとんどなため、こうしたトラブルは起こりがちです。
     著作権のトラブルのほとんどは、こうした契約を交わさなかったことによるものなのです。
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    E発注者から渡された素材に著作権侵害があり、制作がストップさせられた!

     貴方の側に落ち度がなくても、制作がストップになれば損害を受けますし、制作完成後にトラブルに巻き込まれるのはたまりません。かといって貴方がすべての素材についてチェックし、権利処理をすることもできません。
     しかも、貴方がその素材が著作権侵害のおそれがあることを知った上で制作を勧めた場合、貴方まで著作権侵害となる可能性もあります。(「知らなかった」との言い訳は、実際問題として通らない場合が多いので危険性は高いのです。)
     この場合も最大の防衛策は発注者との間の契約書です。きちんとした契約書には必ず「保証条項」が設けられており、「発注者が提供する素材は合法的なものであって、著作権等を侵害するものではないこと」や「万一トラブルが起きた場合は発注者が責任を持って処理し、一切迷惑は掛けません」などと保証させているのです。
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販売・サービス業、メーカなどの場合

  • @ネットショップに掲載した商品写真や説明文を他人が無断で使っている!

     競争が激しい商品分野では、最近特に多いトラブルです。貴方がいろいろ工夫して撮影したり書いたりした商品写真・説明文は当然貴方に著作権があり、他人が無断使用していれば侵害です。
     ただちに相手に警告してやめさせるべきですし、そのためには内容証明郵便での警告書の送付が有効です。問題は、こうした盗用を未然に防ぐための方法と、相手に損害賠償を請求できるかどうか。
     さすがに最近は、商品写真であっても「著作物」と認める判例もあり、警告を無視する不届き者は減りましたが、軽い気持ちでの盗用者は後を絶ちませんし、損害賠償請求の裁判を起こしても「損害額」がはっきりしないためほんのわずかの賠償金しか認められないケースが多いのです。
     予防策としてはサイト内や写真そのものに著作権表示をする必要があります。また、損害賠償請求を見越して、盗用者のサイトを日付入りでコピーして証拠を残したり、サイト内に無断盗用に対して妥当な額の「罰金」を請求する旨を表示するなどの方法も考えるべきでしょう。
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    A開発した商品がヒットしたら、他社にデザインやネーミングをマネされた!

     マネされるぐらいですから当然優れた魅力あるデザインやネーミングのはずです。他社の模倣を完全に防ぐには、デザインなら意匠権、ネーミングなら商標権を取るのがベスト。権利化できれば、そっくりマネたコピー商品やネーミングだけでなく、類似商品の製造販売や宣伝、ネーミングの使用も阻止できますが、登録までにはある程度時間やお金もかかります。
     でも、ヒット商品なのなら不正競争防止法も使える場合があります。消費者が取り違えるような模倣なら「周知表示混同惹起行為」、貴方の商品デザインやネーミングが全国的に有名なら「著名表示冒用行為」、デッドコピー商品なら「商品形態模倣行為」に当たることを相手方に警告できますし、必要なら差止や損害賠償の請求もできます。
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    B他社製品のデザインの一部を参考にした商品を販売したら警告された!

     商品のデザインは一定の条件を満たせば意匠権を取れますが、意匠権は商品のデザイン全体だけでなく、一部分のデザイン(部分意匠)についても取ることができます。ですから、相手がこの部分意匠の意匠権を取っている場合、貴方がその一部分だけを模倣してしまったら、たとえ他の部分にオリジナリティがあっても侵害となってしまう場合があります。
     警告を無視して販売していると本格的に訴訟を起こされる危険がありますから、相手が本当に有効な意匠権を取っているか?本当に侵害に当たるのか?など専門家に調べてもらい、逃げられない場合には販売を中止して、相手と交渉する必要があります。
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    C特許権を取った製品を製造販売したら、他人から意匠権侵害で訴えられた!

     自社の製品について特許権を取ってあれば、その製品に関する貴方の(貴方の会社の)技術やアイデアは保護されますから、独占的にその技術やアイデアを使用できますし、他人がそれらを模倣することも防げます。ただ、特許権はあくまで製品に用いられた技術やアイデアを守る権利であり、それらと関係のない外観やデザイン自体は保護しません。 
     一方、ある程度の数が量産される製品の場合、外観やデザインを保護するのは意匠権です。そのため、貴方の製品のデザインが他人の製品のデザインとそっくりで、その他人が先に意匠権を取っていた場合、たとえ製品の中身の技術やアイデアが異なっていても、意匠権侵害で訴えられる可能性はあります。
    (もちろん、相手の製品の技術やアイデアが貴方の特許発明の模倣であれば、貴方が相手を特許侵害で訴えることはできますが。)
     つまり、ある製品の技術やアイデアは特許権、外観・デザインは意匠権と、二重の保護が必要となる場合があり、一方だけを取って安心していたら他方で他人の権利を侵害していた、ということがあり得るのです。
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    D長年製造や販売をしてきた商品なのに、突然侵害で警告を受けた!

     長年製造や販売をしてきたとしても、特許権や意匠権、商標権を取っていなければ原則として他人に対して権利を主張することはできません。これらの産業財産権はいわば「早い者勝ち」ですから、他人が同じモノについて先に権利化すれば、それを製造・販売している貴方の方が侵害になってしまいます。
     ただし、いずれの産業財産権の法律にも「先使用権」と呼ばれる規定があり、一定の条件を満たせば、他人が出願する前から製造や販売をしていた貴方は例外的に製造や販売を続けることができる場合があります。
    (もちろん「使用権」ですから、基本的に今やっていることを続けることができるだけで、他人に「やめろ」とは言えませんが。)
     ですから、いきなり他人から警告を受けてもあわてずに、まず本当に侵害になるのか?なるとしても自分に「先使用権」がないか?など、慎重に検討する必要があります。
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    Eライセンス契約をした特許権者などが倒産し、一方的に契約を解除された!

     契約の相手方が倒産してしまった場合、破産管財人から一方的にライセンス契約の解除を通告される場合があります。こんな場合、倒産について何の落ち度もない貴方がビジネスを続けられなくなり、大損害を受けてしまいます。
     特許法や意匠法などには「(特許庁に)登録していないライセンス契約は第三者に対抗(主張)できない」という内容の規定があります。登録していれば原則として誰が新たな権利者になっても契約を生き残らせることができますが、ライセンス契約を結んだだけで安心して、それを登録していないケースはよくあります。
     こうした突然のトラブルを防ぐためにも、知的財産権のライセンス契約を結んだら、登録の必要性について十分に検討し、必要ならば防衛策として登録をしておく必要があるのです。
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