著作物の調査とは、他人の著作物を利用しようとする際に、権利処理が必要かどうかを判断するために、まずその著作物について行うべき調査です。
著作物の調査は、具体的には次のような4つのステップからなります。
(クリックすると各STEPの調査の説明にジャンプします)
STEP1 著作物性調査
STEP2 保護著作物調査
STEP3 著作権存続調査
STEP4 無許諾利用可否調査
- 著作権は「著作物」を守る権利です。「著作物」でないものには著作権は発生しませんから、無断使用をしてもされても著作権法上の問題にはなりません。
ですから、権利処理が必要性を判断する最初のステップとして、対象となるモノが著作権法上の「著作物」に当たるか否かを判断することになります。
著作権法で「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(第2条第1項第1号)。
もちろん著作権法には下表のように具体的な「著作物」も示されていますが(第10条)、これらは単なる例であって、実際にはこれだけには限りません。
上の定義によれば、次のようなものは「著作物」とは認められません。
*単なるデータ (例:「東京タワーの高さは333メートルだ」)
理由)「人の思想や感情」の表現ではないから
*他人の作品の「模倣品」
理由)「創作」したものではないから
*「アイデア」そのもの
理由)「表現したもの」ではないから※但し特許法では保護される場合があります。
*工業製品
理由)「文学、芸術、美術、音楽の範囲に属するもの」ではないから
- ただ、実際には「果たしてこれが著作物といえるのか?」といったグレーゾーン的な判断の難しいものもあります。
(例えば「工業製品」といえそうな量産品であっても「著作物」と認める判例もあります。)
また、権利処理の上では、ある他人の著作物を基にして創られた作品が「二次的著作物」に当たるかどうか、また、他人の著作物を「部品」として収録したものが「編集著作物」に当たるかどうか、といった点が問題となる場合があります。
このように、自分の創ったものについて他人に対して著作権を主張したり、他人の創ったものを自分が利用したりする場合に、それが「著作物」と認められるものかどうかを調べ、法律や判例を参照しながら判断するのが「著作物性調査」なのです。
- 著作物であれば創作された瞬間にすべて著作権が発生します。ただ、すべての著作物が常に著作権法によって保護される、すなわち無断利用が禁止されるわけではありません。
「保護を受ける著作物」は次のいずれかに該当するものだけです。(第6条)
@日本国民が創作した著作物(国籍の条件)
A最初に日本国内で発行された著作物(発行地の条件)
B条約によりわが国が保護の義務を負う著作物(条約の条件)
- Aの「発行」とは、相当数のコピーが頒布(配布や販売)されたことをいいます。また、外国で最初に発行され、その後30日以内に日本国内でも発行された著作物も「最初に日本国内で発行された著作物」とみなされます。
つまり、すでに発行されていようと未発行であろうと、どこの国で発行されようと、著作者がどこの国に住んでいようと関係なく、日本国民が創った著作物なら著作権法で保護されます。
また、外国人の著作物であっても日本で最初に発行されていれば保護されますし、そうでなくても国際条約で日本の著作権法で保護される場合があるということです。
- 一方、次のような著作物については、著作権は及ばないこととされています(13条)
@憲法その他の法令(地方公共団体の条例・規則を含む)
A国、地方公共団体、独立行政法人・地方独立行政法人の告示・訓令・通達など
B裁判所の判決、決定、命令など
C以上の著作物の翻訳物や編集物で、国、地方公共団体などが作成するもの)
- これらは、その内容の公共性が高かったり、あるいは誰にでも影響を与える可能性が高いものですから、国民の誰もが自由にコピーや引用できるようにしておく必要がある、というのが理由です。
ですから、著作物によっては誰でも著作権者の承諾を得ずに自由に利用することができる場合があるのです。
- このように、著作物であれば必ず著作権を主張できたり、権利処理が必要となるわけではありませんので、著作者の国籍や発行地、日本での発行の有無、著作権が及ぶかどうか、といった点を調査し、判断する必要があるのです。
これが権利処理の必要性を判断するための第2ステップとなります。
- 著作権や著作者人格権などの権利には一定の存続期間が定められており、この期間を「保護期間」といいます。この期間が過ぎれば著作権は消滅し、著作物は社会全体の共有財産となりますので、誰でも自由に利用することができるようになります。
ですから、他人の著作物を利用しようとする場合、その著作物に関する権利の保護期間が経過していないかどうか、すなわち著作権が存続しているかどうかを調べ、確認することが、権利処理の必要性を判断するための第3ステップとなります。
著作権などの保護期間は次のように定められています。
@著作者人格権の保護期間
保護期間は、著作者の「生存している期間」です。著作者人格権は一身専属の権利とされているため(すなわち、著作者本人だけしか持てず、親族・他人を問わず誰にも譲り渡せない)、著作者が死亡すれば(法人の場合は解散すれば)権利も消滅してしまうからです(第59条)。
ただし、著作者が死亡して(法人なら解散して)著作者人格権が消滅しても、原則としてそれを侵害するような行為を他人がすることは禁止されています(第60条)。
A著作権(財産権)の保護期間
「著作者の生存している期間+死後50年」 です(第51条)
つまり、著作者が生きている限り、そして死亡してから50年過ぎるまで著作権は生きています。
ただし、これには次のような例外があります。
-
なお、保護期間は、死亡・公表・創作した年の「翌年の1月1日」から数えます(第57条)。
例えば、手塚治虫さんは平成元年(1989)に亡くなられましたから、「鉄腕アトム」の著作権は平成2年(1990)1月1日から数えて50年後の平成51年(2039)12月31日まで生きていることになるのです。
- 現在の著作権法は昭和46年1月1日に施行されました。それ以前の著作権法の著作権の保護期間は原則として「著作者の生存期間+死後30年」でしたが、旧法で消滅した著作権は復活しないことになっていますので、著作物によっては旧法の保護期間を調べたり、公表のタイミングを確認したりする必要があります。
また、外国人の著作物の場合、原則としてわが国の著作権法の保護期間が適用されますが、「保護期間の相互主義」といって、わが国より保護期間が短い国の著作物は、その相手国の保護期間だけしか保護されないという特例があります(第58条)。
さらに、「保護期間の戦時加算」といって、第二次大戦中の連合国の国民が大戦前・大戦中に取得した著作権は、本来の保護期間に戦争期間(国によって異なる)を加算する、なんていう特例もあります。
このように、ある著作物の著作権が現在も生きているかどうかについては、特例も含めて保護期間を調査・確認する必要があるのです。
これが存続調査なのです。
- 保護の対象となる「著作物」で、その著作権が現在も生きていさえすれば、どんな場合でも他人に対して著作権を主張できたり、無断利用が禁止されるかといえば、必ずしもそうではありません。
著作権法にはあきれるほど多くの例外があり(「権利制限規定」といいます)、利用の目的や利用する人や団体によって、権利者の了解を得ずに無断で利用できる場合があります。
このような著作権の「権利制限規定」としては、この項のいちばん終わりの表に示すようなものがあります。
- つまり、利用の目的や利用する人や団体によっては、上記のような「例外」に当たり、そもそも権利処理をする必要がない場合があるのです。
しかし、これらはあくまで「例外」ですから、その適用は厳格に定められています。「教育や福祉の目的だから、無断で利用しても大丈夫」などと勝手な判断をすることは危険です。
また、「例外」の適用を受けて無断でコピーできるとしても、そのコピーを目的外に利用することは許されませんし、利用する際に「出所の明示」をしなければならない場合や、「補償金の支払い」をしなければならない場合もあります。
さらに、著作権が「例外」によってクリアできる場合でも、著作者人格権もクリアできるわけではないことにも注意が必要です。
このように、著作権の生きている著作物を利用する場合に、しようとしている利用が「例外」に当たるかどうか、また当たるとしてもどのような条件が必要か、といったことを調査し、判断することが権利処理の必要性の判断のための第4ステップとなります。
これが利用可否調査です。